異世界ファンタジー小説「幻想領域」

(C)ジュエルセイバーFREE

※ネットCGIゲームラビリスの二次創作です

今だってほら、耳を澄ませば聞こえてくる。海を越え、時を越えて。露が滴る草原の向こうから。誰かの唇から紡ぎ出される旋律は、夜の闇間へ静かにたゆたう。
よくよく聞いてみると、それは優しく悲しい恋の歌だった。月の光のように頼りなく、それでいて喉が張り裂けんばかりの感情が込もった歌。世界を越えて、時間を越えて。愛しい人に届くようにと、祈るように願い続ける歌。
やがて山の向こうから朝日が顔を覗かせる。矢のように走った陽光が、レンガづくりの街をまばゆく照らし始めた。新しい一日を迎えられたことに人々は感謝し、神に祈りを捧げる。
時は十九世紀前半――暗黒時代として後世に名を残すことになる時代。魔法と幻想の闇、そして科学と文明の光が入り混じり、人々は混乱と絶望の渦の中にいた。
スカンジナビア半島の北端に位置する、地下都市ヴェネローゼ。本編の舞台となるこの街に、何の変哲もない朝がやってきた。
――誰かの歌は、まだ聞こえ続けている。