ホラー短編小説集「怪談よせあつめ」

(C)ぱくたそ




◆序章

障子越しに見る月はとてもおぼろで、頼りないものだった。
六畳半の狭い部屋には、ところせましとろうそくが置かれている。小さな炎が、暗闇の中に無数に浮かんでいた。その間の狭い場所に、葉月たち七人は円を作って座っている。
「これで百本目ね……」
弾む声で美幸が言って、最後のろうそくに火をつける。辺りの空気はしんと静まり返っていた。
――暑さばらいに百物語をしようよ。
クラスのリーダー格である美幸がそう言い出したことから、長い長い夜が始まった。
これまでにも仲良しグループでお泊まり会をしたことはある。でも今回はお寺である千歳の家に泊まるのだ。
葉月は円の対角線上にいる千歳にちらりと視線をおくる。彼女――正印寺 千歳は、数ヶ月前に葉月たちのクラスに来た転校生だ。切れ長の瞳に、肩の上で切りそろえられた黒髪。暗闇の中では日本人形と間違えてしまいそうなくらいに整った顔立ち。外見通りのおとなしい性格だったのに、気づけば葉月たちがつくる円の中にいた。存在感があるのかないのかわからない、不思議な存在だ。
他の六人は、いづれも幼稚園か小学校からの幼なじみだった。中学校でもクラスなんか関係なく親友としてつるんでいる。だから美幸が号令を一声かけたときも、当然のようにこのメンバーが集まった。リーダー格で大柄な美幸に、おとなしい転校生の千歳。敦子、ハルカ、早百合、奈津美。ろうそくの火にぼんやりと浮かび上がった六つの顔は、ぜんぶ葉月の馴染みの友達のものだ。
「ルールを確認するね……」
美幸が静かに口火を切った。
――百物語。暗い部屋にろうそくを百本立てて、怪談を一話語り終えるごとに一本ずつ吹き消していく。そうして、百本のろうそくがすべて消えて部屋が暗闇になった瞬間、何かが起こるというのだ。
一つ、終わるまで部屋の外にでてはならない。二つ、ろうそくは一話終えるごとに一つづつ消していく。決して倒したりしてはならない。
「そして最後、これが一番大切なの。いったん百物語を始めてしまったら、終わるまでやめてはならないのよ」
背筋に冷たいものがはしって、葉月はぶるりと体を震わせた。
「じゃあ、私から始めるね」
美幸がゆっくりと語り始める。時計の針の音が暗闇にハッキリと響いていた。
ろうそくの揺らめきを見つめていると、どこか異世界に迷い込んでしまいそうな心地になる。

――こうして。百物語は静かにその幕をあけた。