現代短編小説「See me again」

(C)ぱくたそ

雑誌の占いコーナーによると、あいつとの相性は100%だった。吐き気がした。

割り箸を割り損ねて太くなった部分を、あいつは蟻の列へ無造作に突き刺す。
蟻たちは慌てて列を乱したが、すぐにもとのようにすました顔で、割り箸を迂回した。
あいつはそれに怒ったのか何なのか、何度も何度も地面に割り箸を突き立てる。潰れた蟻たちと、逃げる場を探して足を動かす蟻たち。
黒ごま潰してまぶしたみたい。
「楽しい?」
私が背後から話しかけると、あいつはしゃがみこんだまま、蟻を潰す手を休めずに答えた。
「楽しくない」
(――なら、やめれば? 迷惑じゃん)
って心の中では思ったけれど、言わない。言ったら、あいつはその無駄な行為を続けるに決まっているから。
――常識は嫌い、ってのがあいつの口癖。あいつは言われたことには意地でも逆らわないといられない厄介な性質の人間だ。
良いこととか悪いこととか関係なく、人の期待を裏切りたいらしい。馬鹿みたいっていうか……馬鹿なんだと思う。
そう、バカだ。あいつは救いようのないバカ。
「そういえば、進路、決めた?」
「ずっと前から決めてる」
「何?」
あいつは割り箸をぽんと地面に投げ捨てて、立ち上がった。
「泣く子も黙る医者」
「はあ?」
思わず聞き返す。おおよそあいつの口から出たとは思えない言葉だった。いや、泣く子も黙るって部分だけはあいつらしいんだけどね。
「将来、あんたが病気になったら見てあげよう」
「安くしといてくれるなら」
いつものように素っ気なく返しながら、頭の中で白衣の姿を思い浮かべてみた。
そこそこ似合う気がしなくもないが、想像の中のあいつの白衣には赤黒い血がべっとりとついている。残念ながら。
「それか、看護師もいいな」
「なんでよ?」
「血とかぶしゅぶしゅしたいから。ブラッディ・ナースってね」
ぶしゅぶしゅの意味はわかりたくないけれど、あいつは医師や看護師になるべきではないということはよーく理解できた。
「将来、あんたの病院には絶対に行かない」
「えーなんで―? 血とかぶしゅーって抜いてあげるって」
最悪だ。
「風邪でも?」
「風邪でも! 嫌なわけ?」
蟻潰しに興じていたときの百倍楽しそうなあいつの様子に、私は呆れてため息をつく。
「答えるまでもないけど、嫌だね」
「ふーん、じゃあさ、あんたと俺、お互いの顔を見るのは最後ってわけだ。一生で」
まあそうだ。うん、考えれば考えるほど、その通り。私たちの関係なんて、そんなもん、クレープの生地よりも薄いんだ。
「それはそうと、そろそろ行くから」
「えー、じゃあ私も行こうかな」
あいつは私を見下した目で睨み付けた。
「隣は歩かないよ」
「なんで?」
「こんなデブスと歩いているところをクラスの奴にでも見られたらどう言い訳するわけ?」
デブとブスを足してデブスらしい。ひどい。
「言い訳って、普通に友達ですっていえばいいじゃん」
「嫌に決まっているよ、恥ずかしい」
あいつは変なところは正直だった。私は立ち上がり、ため息をつく。その半分くらいは、自分の情けなさに対する嘆きだった。
「じゃーね」
「ばいばい」
短い挨拶を交わして別れる。ふと振り返れば、夕闇の公園には、私の影だけが細長くひっそりと伸びていた。