現代恋愛青春小説「描かれた夏の風」

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少しずつ、少しずつ時は流れて。
その黒猫に出会ったのは、雲一つない晴れた日の午後だった。
いつものように昼寝しようと校舎裏に向かう。
人気のない桜の下はこの季節、いいサボリ場だった。
「え……?」
思わず自分の瞳を疑う。
眠っていたのは黒い仔猫。
日溜まりの中、あの絵と同じ景色がそこにあった。
仔猫はやがてこちらの気配に気づくと、ゆっくりと歩いて去ろうとする。
何とかして呼び止めようと思った。
でも名前がわからない。
「――ルカ!」
ハッとして、口をおさえた。
とっさに口をついて出てきた名が『ルカ』だったのだ。
「おいで」
手を差し出すと、黒猫――ルカは恐る恐る寄ってくる。
その日から、ヒマな時間をサクラの下で過ごすようになった。
人懐っこいもので、ルカは呼ばれたらすぐに来る。
まるで犬みたいだと思った。
ルカ、という名前が気に入っているらしい。
どこか複雑な気分だ。
しばらくして、子猫がもう一匹増えた。
一年生らしい女子生徒が、自分も裏庭に来ていいかと訊いてきたのだ。
学校の敷地という公共スペースなのだから、許可なんていらない。変わったことを言う子だと、そう思った。
胸元の赤いリボンに、少し短いスカート。肩の上で揺れる黒のセミロング。
一年生としての立場上控えめだが、それなりに上手く制服を着こなしている。これといって特筆すべきところもない、ごくごく普通の女の子だった。
可愛いか不細工かといえば可愛いかもしれないが、誰もが振り返るってほどじゃない。
だから名前を聞いたとき、正直言って少し驚いた。
(この子が……?)
西口友絵だというのなら、事情は大体察せた。
アスカや校内の噂によると彼女は今、村八分にされているらしい。
女というのは群れる生き物だ。
お弁当を一人で食べなくてはならないのは、多分つらいことなのだろう。
――孤独と仲の良い自分には、彼女の気持ちなんてよくわからないけれど。

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