現代恋愛青春小説「描かれた夏の風」

 ◆

彼女はその日から毎日律儀に裏庭へ通ってきた。
暇つぶしに話しかけてみると、どこか緊張したような声が返ってくる。うじうじしてないところと、一人で行動できるところが気に入った。
黒猫のルカと、西口友絵。
一人と一匹から、自分はとても懐かれている。
自分なんかの隣にいて何が面白いのかわからないが、好かれて悪い気はしなかった。
しばらく一緒にいて、彼女の絵が優しい理由が何となく分かってきた。
西口友絵は可愛い子だ。
仕草や行動が女の子らしい。
それも計算してやっているのではない、自然で嫌みのない女の子らしさなのだ。
彼女が広げるスケッチブックに何気なく目をやる。
一度も見たことないのに、なぜか懐かしい景色。
それはとても愛しいものに思えた。
彼女はいつも何かに感謝している。
その対象は食べるものであったり、家族だったり、アスカであったり、自分だったりした。
彼女のそういう謙虚な態度はとても好ましいように思う。
そんな彼女だから、周りの人だけでなく芸術からも愛されているのかもしれない。
「それにしても、大きなキャンバスだねー」
「はい、文化祭の予選に出品する作品なんです」
彼女は文化祭での展示代表も目指しますと言って、はにかんだ笑みを浮かべる。
万が一入賞してしまえば、更に嫌がらせが酷くなるかもしれない。
大丈夫かと尋ねれば、彼女はしばらく考えてから答えた。
「だから本気を出さないなんて、そんなの絵をバカにしてます」
いつだって真剣勝負で、ただただ純粋に上を目指す。それが芸術の道を志す者の心構えなのだろう。
「無理しないように頑張ってね。見せてほしいな、完成したらでいいから。――文化祭に妹を連れて来ようと思うから、そのときにでも」
「はい、完成したらきっと! 約束ですよ」
彼女の澄んだ笑みを見ていると、自分の最悪なところが浮き彫りになる気がする。
どうしようもなく腹が立った。
彼女に対してではなく、自分自身に。
――どうして、できもしない約束をしてしまうのだろう、と。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。