現代恋愛青春小説「描かれた夏の風」

誰もが何かと戦っている。
誰かは何かに立ち向かうために戦っている。
自分は何かから逃げるために戦っている。
ルカが死んだ。
あっけないくらい突然に。
ある放課後、何となく裏庭に行ってみた。夜からの仕事のために仮眠を取りたかったのだ。
自分は高校生失格なくらいによく働いていると思う。
バイトもせず、ぬくぬくと暮らす同級生たちが自分より子どもに見えることがある。
受験戦争なんて、現実世界を生き残る厳しさを考えれば大したことない。
大したことないはずだが、両方での勝利を得ようとすると大変だった。
授業で疲れた体を桜の木にもたれさせる。
「ルカ?」
黒い仔猫を呼ぶと、すぐそばで返事があった。
――みい。
誰しもが何かと戦っている。
それはルカも例外ではないのかもしれない。
「こっちにおいで」
優しく声をかけるが、その日に限ってルカは寄ってこなかった。
トテトテと愛らしい動作で進む先のフェンスには、穴があいている。
以前から空いていたが、木の板でふさいだはずの穴。
立てかけたはずの板は、風のせいだろうか。フェンスの脇に倒れていた。
「止まれ!」
空気に異変を感じて、思わず叫ぶ。
その声に驚いたルカは、弾かれるようにして穴を抜けた。
アスファルトを揺らして迫る、巨大な両輪。
仔猫の上に覆い被さるのは、破滅という名の黒い影。引き延ばされた時間の中で、否が応でも見てしまう。
プチ、と小さな音を立てて、その身体はグッシャリと潰れた。高いところから落としたトマトのように、血の赤がはじける。
タイヤが耳障りに鳴って、車は道の脇に急停車した。
あまりにもあっけなくて、あまりにもチープな死に方。
はるか昔に忘れたはずの光景が、頭の中に蘇った。
――いつだって、あのときだって、そう。
大切なものは何もできないまま消えていく。

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