現代恋愛青春小説「描かれた夏の風」

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終わってしまった後、立ちすくんでいたら名を呼ばれた。
「智……先輩……」
振り返れば、そこにはアスカと西口友絵が立っている。
西口友絵の瞳は、今にも泣き出しそうなくらい悲しく揺れていた。女の子は見ない方がいいであろう無惨な遺骸を、呆然として見つめている。
アスカはといえば、当然のように悲鳴をあげた。
道に潰れているものは、彼女にとって単なる汚らしいゴミに過ぎないのだ。
――じゃあ、自分にとっては?
自問自答してみて分かった。
ルカという大切な名前を与えた仔猫のことが、多分自分は好きだった。
好きだから、こんなにも苦しくなる。
吐きそうな後味の悪さと、針で刺されたような胸の痛みだけが全てだ。
――もう、何も好きにならないと誓ったはずなのに。
人間が死を怖がるのは、何かを愛しているからだ。
自分や周りの人々を愛するから、失いたくないと思うから別れが怖くなる。
ならば、最初から好かなければいいだけの話だ。
失いたくないものを持たなければ、きっと何も怖くない。
そう思って生きてきたけれど、失いたくないものは次から次へとできてくる。
もう充分だ。
大切なものなんていらない。
失って辛い思いをするのは、もう絶対に御免だ。
――西口友絵とはもう会わない。

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