現代恋愛青春小説「描かれた夏の風」

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夏休みも中盤にさしかかると、他の作品の出来具合が気になりだす。
それは、入道雲が高くそびえ立ったある朝のことだった。
「おはよー」
「お、おはよう」
友達の挨拶に、私はどこかしっくりこないものを感じる。
「どうかしたの?」
「友絵、これ……」
友達は私の反応をうかがうかのように、教室の中を恐る恐る指し示した。
ざわめく教室には、乱れた机が無秩序に散らばっている。その中心に置かれていたものを見て、目の前が一瞬、真っ白になった。
放り出されているのは、私がずっとにらめっこをしてきた景色だ。
まがまがしい嵐が裏庭を包み込み、教室の床にまで広がっている。
「なにこれ。ひどい……」
私の絵の上に容赦なく振りかけられていたのは、真っ黒な墨だった。
――なんで?
私はうつむいて、かたく唇を結ぶ。
長い時間をかけて描いてきた大切な絵が、誰かの悪意に踏みにじられた。
呆然とした私の頭に、だんだんと怒りが染み出してくる。しかしある事実を思い出して、私は顔面蒼白になった。
文化祭の代表選考会に出す作品は、あと二週間のうちに仕上げなくてはならない。
長い時間をかけて描いてきた裏庭の景色が台無しになった。あとたった二週間でこれ以上の作品が描けるわけもない。
私は空っぽの心で、墨のぶちまけられた絵を片付けた。
「教室の鍵ずっと開いてたし……昨日の放課後か今日の早朝か」
「目撃者は今のところなしね」
犯人探しの途中経過を、私に同情した友人が伝えてくれた。
みんなの表情に、自分の作品が狙われなかったことに対する安堵感が見てとれる。
私の絵だけが放り出されて、私の絵だけが墨をぶちまけられた。
誰かに恨まれているのだと思うと気が滅入る。
犯人探しなんてどうでもよかった。
文化祭の代表に私が選ばれることはない。
それだけが真実だった。
私は乾いた笑顔を浮かべて、話しかけてくる友達に応じる。
目の前で起こることは、頭の中からどんどん滑り落ちていった。

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