現代青春小説「鶴賀マーケス・ファンタジー クリアー」

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鬼ごっこサークルを運営している高校生・浩司は、仲間のひとりである波香から告白される。みんなが仲良しなサークルを壊しかねない気持ちを迷惑に思う浩司だが、波香の気持ちは別のところにあると気づく。キラキラしていない灰色の青春小説。




本編

俺は折り畳み椅子に座って、手に持った携帯電話のボタンの上に親指を滑らせる。ややあって《送信完了》の四文字が画面に浮かび上がった。
鶴賀マーケス最上階。
がらんとした広い空間に楽しげな声が響く。
「よしよし、快調快調」
今日も無事にかくれんぼ鬼ごっこを開始することができた。俺はふうと安堵の息をもらす。
一年半前に始めたこの集会は俺にとって大きな楽しみであり、また結構な大仕事でもあった。なにせ、十数人の子どもを取り仕切るのだ。それも一癖も二癖もある奴らばかりを。けれど俺はそれなりにこの集会を成功させてきたし、今では子どもたちみんなから兄と慕われるようになった。その立場には満足しているが、いつも思ってしまうのだ。
――もうそろそろ潮時かもしれないな、と。
『あの日』という共通点を持っていれば受け入れ、そうでなければ受け入れない。負の絆で繋がった子どもたちが作る、排他的なサークル。外には目を向けず、同じように傷ついた者同士で自己完結した円。
みんなとつるんでいる時間は、どれも例外なく楽しかった。けれどふとした瞬間に思うのだ。
自分たちのやっていることは、傷のなめあいではないのか。現実から目を逸らしているだけなのではないか、と。
昔――もう一年前になるが、一度、隣人の少女にそんな感情を打ち明けたことがあった。
「浩司兄の言ってることは理解できるけど、納得できないよ」
彼女は、宮町理子は迷いなくそう言い放った。
「傷をなめあって、何か悪いのかな? 同じ苦しみを抱えた者同士で集まって何か悪いのかな?」
理子は普段から悩みなんて欠片もないかのように底抜けに明るい。だからその時も理子は無邪気な笑顔を浮かべていて、そのことに対して俺は違和感を微塵も覚えなかった。
「現実から目を逸らさなくちゃ生きていけないこともあるんだよ、きっと」
理子は微笑みながら強い口調でそう言いきる。否定されるのを拒絶するみたいに、強く。
「浩司兄は強いから想像できないかもしれないけどさ、世の中には、現実に耐えられないくらい弱い人だっているんだと思う」
その時は理子の言葉の意味が――理子がどうしてそんなことを言うのか俺には理解できなかった。けれど、最近になってようやく分かった気がする。

だから俺はこのサークルにあいつを、辻村五月を参加させた。